・[mm]系単位で計算する

・まえがき
 Phoenicsの新バージョン,3.6.0がこの春にリリースされた.CHAM社の説明では,変更はユーザーインターフェースの部分が主で,ソルバーは変わっていないと言う.しかし,3.5.1では計算できていたケースのうち,3.6.0で計算できなくなってしまったものが出た.

 CHAMに問い合わせたところ,

なお、先日の”パーソルで格子分割が増えると速度が計算されない件”は、
色々と試行錯誤したのですが、こちらで解決できなかったので
イギリスの開発チームに報告しました。

備考:
PHOENICSは単精度のプログラムなので、体系の小さな計算だと倍精度のプログラムに
比べると
必然的に誤差が大きくなってしまうでしょう。
今回のケースのような体系の計算をする場合は、mm単位系に換算して計算する方が安
全だと思います。
試しに、今回のモデルをmm単位系にしてテストして見ましたが、格子分割を増やして
も速度は問題なく計算されました。

との返事.悩んでいた系は,直径0.5mm程度のISOノズルだったので,なるほど,と思う.で,今回初めて[mm]系単位での計算に挑むことになった.

・単位系の変換
 CHAMのサポートページでやり方を見る.そして分かったのは,Phoenicsには別に単位系を変換するような特別な機能はないということ.流体力学には,「流れの相似則」という法則がある.レイノルズ数Reを

$\displaystyle Re = \frac{\rho v l}{\eta}$   (1)

と定義するとき,Reの同じ流れは全て同じに振る舞う,というものだ.流体の実験では普通に行われる手法(例えば,模型の船と水槽での試験)だが,これをPhoenicsの中でやるだけに過ぎない.いま,系の代表長さが0.1mmのオーダーなので,これを1,000倍に拡大することを考える.すると式(1)から,流体の密度を1/1,000とすれば,流れの速度は同じになる,というわけだ.結果的に,これは長さの単位を[mm]に,密度の単位を[mg/mm^3]に,すべて「ミリ」で考えたときに一致する.そのほかの単位の換算をまとめると以下のようになる.

物理量 Phoenics標準単位[SI] [mm]系単位 備考
長さ [m] =10^3[mm]
速度 [m/s] =1[mm/ms]
密度 [kg/m^3] =10^-3[mg/mm^3]
圧力 [Pa]=[kg/m・s^2] =10^-3[mg/mm・ms^2]
温度 [K] =[K] 影響を受けない
動粘度 [m^2/s] =10^3[mm^2/ms]

※層流,定常の系で必要な物理量のみ記す.

・例題
 今回取り上げたのは,ISO-9300標準ノズル.粘性の効果を顕著に出すために,敢えてDischarge coefficientの小さい領域で計算する.ISOノズルとDischarge coefficientについては「Discharge coefficientの計算」を参照のこと.

解析領域(y × z) 0.0026×0.007[m]
メッシュ 26×70
流体 窒素(理想気体近似)
オブジェクト境界 smooth wall friction
ノズル径 0.001[m]
質量流量 2.65e-6[kg/s]
Cd 約0.82

[m]系で素直に定義したq1ファイルはこちら

 さて,ここからが本題.これを[mm]系に書き換えるにはどうするか.

  1. 系の大きさを1,000倍にする.これは,当たり前ですね.オブジェクトも1,000倍に拡大.見た目は全く同じだが大きさが1,000倍の系ができる.
  2. 入口境界条件の変更
  3. 出口境界条件の変更
  4. 物性の変更
  5. 初期条件の変更
  6. 緩和係数の変更

このようにして出来た[mm]系のq1ファイルはこちら.両者を比較してみると良いでしょう.

・計算結果
 両者の計算結果を比較してみる.まずは,計算収束の状況.

[m]系

[mm]系

プローブ上の物理量はぴたりと一致した.収束の状況もうり二つ.圧力の単位が1,000倍違うことに注意.

続いて,速度コンター.
[m]系

[mm]系

全く区別がつきませんな.

最後に,中心軸上の物理量を比較してみる.

このグラフ,実線と点線で区別出来るようにしたのだが,重なって全く区別できない.

・まとめ