関数電卓セレクトガイド
はじめに
学生諸君からのよくある質問に「電卓はどんなものを使ったらよいでしょうか」というものがある.関数電卓を使う講義では冒頭に必ず関数電卓の推奨モデルを紹介しているが,先日,ガイダンスに参加していたにもかかわらず「標準入力」の古いモデルを買ってきた学生がいた.話を聞いたところ「このページを見て決めました」とのこと.
いままで,このページでは,広く見られているということを意識して,特定の機種を推すことは避けてきた.しかし,CASIOが2023年に発売開始したfx-JP500CWは,明らかに今までの関数電卓とは異なるコンセプトで設計されたもので,そして,それが使いやすさに全くつながっていないという点が問題である※.そこで,思い切って,このページでも,現行機種の中から,大学の理学部・工学部で使うのに適した関数電卓について私の意見をはっきり述べることとする.
※わかりやすいか,という意味ではたしかに「マニュアルなしでも使える」わかりやすさは向上したように思われる.しかし,それは「使いやすさ」とは別の評価軸である.
お薦めしない関数電卓
下の写真は2023年9月に発売されたCASIOの最新機種,fx-JP500CWである.型番的には前モデルのfx-JP500の後継機種の位置付けで,しかもfx-JP500は終売になってしまったので,何も知らない人は素直にこのモデルを購入することだろう.しかし,そこは待ってもらいたい.
CASIO fx-JP500CW |
この機種は,CASIOから久しぶりに出た新機種とあって当初は大変人気であった.私も発売直後に入手して使ってみたが,CASIOが「Approachable(使いやすい)」と謳うUI(Project CW 開発ストーリー)は,関数電卓の「使いやすさ」とは何か,という私の見解と真っ向から対立するものであった.
特に,理工学で良く出てくる指数や対数,大きい数,小さい数の計算操作とルールが前モデルから大幅に変更された点は問題である.詳細については,レビュー記事を参照してもらいたい.そして,それが教育にも悪影響を与えるレベルと判断したため,2024年の春からは,本学理学部の学生にはなるべく下記推奨モデルを買うように指導している.
本モデルについては,教育関係者からも否定的なレビューが出されており,
今日発売のCASIO fx-JP500CWを使い慣れた旧モデルと徹底比較しました! (中山祐介の合格ブログ)
関数電卓fx-JP500CWの指数表示入力でハマった (分析室の屋根裏)
現在では発売当初の熱も冷めたようである.2024年5月現在,Amazonで「関数電卓の売れ筋」を検索すると下記のfx-375ES-Aがトップになっている.
では,お薦めは?
条件は,シンプルに以下の二つ.
- 現行モデルであること
- 「数式自然表示」であること
これで,お薦めできるモデルは事実上,以下の2モデルのみとなる(2024年5月現在).
CASIO fx-375ES-A | SHARP EL-509T |
fx-375ES-Aは,中身はfx-375ESと同じもので,外装デザインがモダンに変わっている.発売は2012年と古いが,関数電卓としてはほぼ完成の域にあると言って差し支えない※.その後,CASIOからは2015年にfx-JP500が発売された.表記が日本語になり("JP"はJapaneseの意味だろう),液晶ディスプレイが高精細になっており,機能はfx-375ESの上位互換なので,もし入手可能なら是非こちらをお勧めする.ただし上述の様に一般的な小売店では入手不能.一方,SHARPのEL-509Tは,fx-JP500のライバルとして2016年に発売されたものである.したがって日本語表記を含め,機能としてはほぼ同じなのだが,液晶の解像度が前モデルと同じなのが残念.
※私が満足している,という意味では無い.市販の関数電卓のUIにはいくつかの不満があり,それを解消するために実験的に開発したのがES
Calculatorである.
では,上記2モデルのどちらがお薦めかと言えば,それは使う人の好みの問題となる.拙著「大学生・エンジニアのための関数電卓活用ガイド」は,fx-JP500とEL-509Tの両機種の操作方法を併記する形で執筆した.
更新履歴
2024/05/10 本ページの内容を誤解されたため反省.真の「お薦め」を語る.
2017/01/19 サイト更新にあわせスタイルを更新.内容も時代に合わせ改訂.
2013/04/15 改訂.