関数電卓博物館
SANYO CZ-5
メーカー | SANYO | 09/04/03初出 11/08/23補筆 |
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型式 | CZ-5 | ||
発売年 | 不明 | ||
販売価格 | 不明 | ||
動力 | 単三×2 or ACアダプター | ||
表示方式 | 蛍光表示管 | ||
コレクション 付属品 |
ソフトケース | ||
あの,太陽電池で有名な三洋電機の関数電卓.1970年代,日本の電機メーカーは「電卓戦争」と呼ばれる過酷な競争の中にいた.新製品は作ったそばから陳腐化し,高機能な新型が旧機種の半額といった価格で販売され,在庫の山に埋もれていく.結局,生き残ったのは数社のみ,というのは皆さんご存じの通り[1].SANYOは,そういう意味では電卓戦争の「負け組」ということになるのだろう. 恐らく発売されたのは70年代後半と推測される.インターネットで本機についての情報を探したが全く見つからなかった.CASIOの関数電卓は絶版モデルでも情報は比較的容易に見つかるのとは対照的だ. しかし,三洋電機も天下の大企業.このCZ-5を使ってみると,関数電卓としての素性には「負け」の要素は微塵も感じられない.まさに勝負は時の運.「忘れられた名機」とでも言おうか. キーボードで特徴的なのは[-]キーが赤く着色されていること.理由は不明.メモリーはおなじみの[M]に加え,「標準電卓」では珍しく[STO]+[0-4]で5個の独立したメモリーが利用出来る.キーも独立しておりユーザーインターフェースは合格. 計算の優先順位はこのころの関数電卓のお約束なのか,普通の電卓と同じ. 2+3×4=? の答は,普通の電卓と同様「20」となる.括弧もメモリーも装備している本機種がこの優先順位を取ると言うことは,能力的限界でなく当時の常識に合わせたということだ.この常識が変わったのはいつごろか,というのが興味深い. →どうやらこの推測が誤りらしいことが判明.SHARP EL-5001を参照. [1]キーの左,[X<->Y]と刻印されたキーは現代の関数電卓には無いものだ※1.RPNでなくとも,関数電卓は最低2つの演算スタックを持つ.たとえば「2+3」ならスタックXに「2」,スタックYに「3」が入る.イコールキーでこれら2つの足し算を行うわけだが,[X<->Y]キーはスタックXとYを入れ換えるキーだ.もちろん,「2+3」でスタックを入れ換えても何も起こらないが,「2-3」なら [2] [-] [3] [X<->Y] [=] 答:1 となる.実用的な使い方を思いつくのは難しいが,例えば次のような例はどうだろうか. Q1. y=2+3 Q2. z=3/y このような計算を順番にやろうとするとき,[ANS]キーのない「標準電卓」はメモリを使わないと2番目の計算を行うことが出来ない.本機なら [2] [+] [3] [=] 答:5 [3] [÷] [X<->Y] [=] 答:0.6 となる.しかし,上の計算は別に[X<->Y]など無くてもちょっとした工夫で実行可能. [1/x] [×] [3] [=] とやれば良いのだ.他に有用な使い方が見つからなかったからなのか,このボタンは液晶世代の関数電卓では見られなくなった. この電卓の面白い特徴をもうひとつ述べておこう.それは,[Y^X]キーの動作が現代の関数電卓と異なると言うことだ. (9-4)^3=? という計算を考える.CZ-5はこの計算を [9] [-] [4] [Y^X] [3] [=] 答:125 と計算するのだ.つまり,[Y^X]キーには隠れたイコールキーの機能があり,押すと直前までの計算「9-4」が確定してしまう.マニュアルもなしになぜ気づいたかというと,裏面に 書いてある から.多分これは,本機には演算用スタックが2つしかないからで,「9-4」の答を確定して「3」の入る余地を作る苦肉の策だろう. ※1:こう書いたら早速ある方から「現在でもスタックチェンジを持つ電卓はあります」という指摘をいただいた.SHARP EL-501EとCanon F-502.両者はソフトウェアレベルではクローンだ.場所は開き括弧[ (] キーの裏.しかしマニュアルには使い方の説明すらない.これも関数電卓の「盲腸」のひとつだ.なかなか興味深い事実を知った. [1]NHKスペシャル「電子立国日本の自叙伝」 第4回 電卓戦争 |