電磁場(SP)

E-H対応の電磁気学

1. まえがき

現代の古典電磁気学教育において,指導者たちが頭を悩ませるのが「E-B対応」と「E-H対応」の問題である.

もちろん,磁石が発する磁場の正体が,実は電子のスピンによるものであること が100年も前に分かっているので,ありもしない磁荷を基本要素とするE-H対応の電磁気学は間違いであり,教えるべきではない,という意見もある. しかしE-H対応の電磁気学は現代でも一定の地位を保っており,後述するような 制限のもとではE-H対応の電磁気学はE-B対応の電磁気学と全ての問題において等価であるため,「間違い」という主張も暴論であるように思われる.

実際に,電流を含まない,磁石と磁性体のみの系ではE-H対応の電磁気学による考え方の方が問題を実際に解くためには便利であり,かつ直感的理解が可能である.そのためか,磁性物性を扱う学問分野では現在でもE-H対応の物理量が使われており,E-B対応の物理量との間に混乱を生んでいる. そこで本稿では,まずE-H対応の物理学の出発点を電流モデルから考え直し,仮想の粒子としての「磁荷」を許す立場から構築されたE-H対応の電磁気学について考え,E-B対応の電磁気学との差異について論じることとする.

日本応用磁気学会 「推奨単位」
 
 

2. 基本粒子としての磁荷の定義

まず,出発点として我々は全ての磁場は電流より生じるとし,\(\vB = \Rot \vA\) を認める.すると,この世の最小の磁石は電子を微小ループ電流と見なした 磁気モーメントと言うことになる.従って,これを全く同じ磁場を生じる他のモデルで描写しても,電子から離れたところから観察する限りにおいては電磁気学の理論は同一に保たれる.


図1: 電気双極子の発する電場(\(\vE\)),電束密度(\(\vD\))と微小ループ電流の発 する磁場(\(\vH\)),磁束密度(\(\vB\))を真横から見て比較したもの.

図1は,電気双極子(接近した正負の電荷)の作る電場の様子と,磁気モーメント(微小ループ電流)の作る磁場の様子をそれぞれ真横から見て比較したものである.両者は見かけ上全く区別が付かない場を発していることがわかる.両者が全く同じ場を発していることは以下のように証明できる.

  

電気双極子モーメント

電気双極子モーメント$\vp$が作るスカラポテンシャルは

\begin{align}\label{B-電気双極子が作るポテンシャル} \phi(r) = \frac{1}{4 \pi \epsilon_0}\frac{\vp\cdot \vr}{r^3} \end{align}

で与えられ,この双極子モーメントの発する電場は

\begin{align}\vE = -\nabla\phi(\vr) \end{align}

を解けばよい.いま,電気双極子の向きを$z$軸方向とし,極座標で計算すると

\begin{align} E_r &= -\frac{1}{4 \pi \epsilon_0}\Bib{}{r}\left\{\frac{\vp\cdot\vr}{r^3}\right\}\nonumber \\ &= -\frac{1}{4 \pi \epsilon_0}\Bib{}{r}\left\{\frac{p r \cos\theta}{r^3}\right\}\nonumber \\ \label{B-電気双極子電場r} &= \frac{p}{2 \pi \epsilon_0}\frac{\cos\theta}{r^3} \\ E_\theta &= -\frac{1}{4 \pi \epsilon_0}\frac{1}{r}\Bib{}{\theta}\left\{\frac{\vp\cdot\vr}{r^3}\right\}\nonumber \\ &= -\frac{1}{4 \pi \epsilon_0}\frac{1}{r}\Bib{}{\theta}\left\{\frac{p r \cos\theta}{r^3}\right\}\nonumber \\ \label{B-電気双極子電場theta} &= \frac{p}{4 \pi \epsilon_0}\frac{\sin\theta}{r^3} \end{align}

を得る.

  

磁気モーメント

磁気モーメントが作るベクトルポテンシャルは

\begin{align} \vA = \frac{\mu_0}{4 \pi}\frac{\vm\times\vr}{r^3} \end{align}

で与えられ,この磁気モーメントの発する磁場は$\vB=\Rot\vA$を実行すれば与えられる.いま,磁気モーメントの向きを$z$軸方向とし,極座標で計算する.$\vA$は$\varphi$成分しか持たず,大きさが

\begin{align}A_\varphi = \frac{m\mu_0}{4 \pi}\frac{\sin\theta}{r^2} \end{align}

と表されることに注意しよう.

\begin{align}B_r &= \frac{1}{r \sin\theta}\left[\Bib{(\sin\theta A_\varphi)}{\theta}-\Bib{A_\theta}{\varphi}\right]\nonumber \\ &= \frac{m \mu_0}{4 \pi r^3 \sin\theta}\Bib{}{\theta}\sin^2\theta\nonumber \\ &= \frac{m \mu_0}{2 \pi}\frac{\cos\theta}{r^3} \\ B_\theta &= \frac{1}{r}\left[\frac{1}{\sin\theta}\Bib{A_r}{\varphi}-\Bib{(r A_\varphi)}{r}\right]\nonumber \\ &= -\frac{1}{r}\Bib{}{r}\left\{\frac{m \mu_0 \sin\theta}{4 \pi r}\right\}\nonumber \\ &= \frac{m \mu_0}{4 \pi}\frac{\sin\theta}{r^3} \\ \end{align}

このように,電気双極子モーメントが作る電場$\vE$と,磁気モーメントが作る磁場$\vB$はちょうど定数倍だけ異なり,全く同じ空間分布であることがわかる.そこで,この磁場を,「正負の磁荷が作る磁場」であると考えよう,と言うのが現代におけるE-H対応の出発点である.

まず,磁荷を以下のような粒子と定義する.

  • 磁荷($q_{\rm m}$と表記する)には正,負の二種類がある.
  • 磁荷の大きさはMKSA単位系では[Wb]である.
  • 磁荷同士は,以下のCoulombの法則により力を及ぼし合う.
\begin{align}\vF = \frac{1}{4 \pi \mu_0}\frac{q_{m1}q_{m2}}{r^2}\hr \end{align}

つまり,[Wb]を[C]に,$\mu_0$を$\epsilon_0$に置き換えれば,磁荷の従う法則は電荷の従う法則と全く同じである,と定義するわけである.ただし,ここで注意しなければならないのは,正負の磁荷は決して単独では取り出せない,と言う事実である.

すると,電気双極子との類推から,磁気モーメントが作る磁場は,正負の磁荷が作る双極子モーメントである,とすることができる.このとき,モーメントの大きさは「磁荷の大きさ」$\times$「正負の磁荷の距離」で表されるベクトル量で,この量を「磁気双極子モーメント」と定義する.これが,E-H対応電磁気学における磁気の事実上の基本量となる.

  E-B対応 E-H対応
 磁石の最小単位 磁気モーメント 磁気双極子モーメント
一般的表記 \(\vm\) \(\vp_{\rm m}\)
MKSA単位 [A・m2] [Wb・m]
E-B基準の換算係数 \(\times 1\) \(\times \mu 0\)

磁気双極子モーメントはスカラポテンシャル$\phi_{\rm m}$を自らのまわりに作る.その分布は電気双極子モーメントと定数が異なるのみで,

\begin{align} \phi_{\rm m}(r) = \frac{1}{4 \pi \mu_0}\frac{\vp_{\rm m}\cdot \vr}{r^3} \end{align}

と与えられる.双極子モーメントが作る磁場$\vH$は$-\Grad\phi_{\rm m}$を取れば直ちに得られる.

\begin{align} H_r &= -\frac{1}{4 \pi \mu_0}\Bib{}{r}\left\{\frac{\vp_{\rm m}\cdot\vr}{r^3}\right\}\nonumber \\ &= -\frac{1}{4 \pi \mu_0}\Bib{}{r}\left\{\frac{p_{\rm m} r \cos\theta}{r^3}\right\}\nonumber \\ &= \frac{p_{\rm m}}{2 \pi \mu_0}\frac{\cos\theta}{r^3}\\ H_\theta &= -\frac{1}{4 \pi \mu_0}\frac{1}{r}\Bib{}{\theta}\left\{\frac{\vp_{\rm m}\cdot\vr}{r^3}\right\}\nonumber \\ &= -\frac{1}{4 \pi \mu_0}\frac{1}{r}\Bib{}{\theta}\left\{\frac{p_{\rm m} r \cos\theta}{r^3}\right\}\nonumber \\ &= \frac{p_{\rm m}}{4 \pi \mu_0}\frac{\sin\theta}{r^3} \end{align}

そして,$q_{\rm m}$がCoulombの法則に従い力を及ぼすなら,磁場$\vH$についても当然電場$\vE$と同様のGaussの法則が成立する.

静磁場におけるガウスの法則
     積分形:\begin{align}\label{B-Gauss積分形}\oint_S \vH\cdot \rd \vS=\frac{Q_{\rm m}}{\mu_0}\end{align}
     微分形:\begin{align}\label{B-Gauss微分形}{\rm div}\vH=\frac{\rho_{\rm m}}{\mu_0}\end{align}

 

3. 磁性体の磁化(分極)

続いて,磁性体が磁場中に置かれたときのことを考えよう.磁性体は原子の集合体であり,個々の原子は磁気モーメント(磁気双極子モーメント)として振る舞う.このとき,E-B対応では巨視的な「磁化」$\vM$ベクトルが磁気モーメントの密度として

\begin{align} \vM = n\vm \end{align}

と表されると定義する.しかし,この「磁化」の直感的描写は困難で,これが物理的描写が正しいE-B対応の電磁気学の最大の欠点であろう.

一方,E-H対応に立てば,誘電体で「分極」$\vP$に対応する巨視的な「磁気分極」$\vP_{\rm m}$が定義できる.$\vP_{\rm m}$の直接かつ直感的な定義は,「単位断面を通って移動した磁荷の量を磁気分極とする」というもので,そこから直接

\begin{align} \vP_{\rm m} = n\vp_{\rm m} \end{align}

が導かれる.ただしこの量は,E-H対応の教科書でも「磁化」と呼ばれることがあり,これがE-B対応とE-H対応の電磁気学が混乱する要因となっている.

  E-B対応 E-H対応
磁性体の巨視的変化 磁化 磁気分極
(磁化と呼ぶ教科書もある)
一般的表記 \(\vM\) \(\vP_{\rm m}\)
MKSA単位 [A/m] [Wb/m2]
微視的分極との対応 \(\vM=n\vm\) \(\vP_{\rm m}=n\vp_{\rm m}\)
E-B基準の換算係数 \(\times 1\) \(\times \mu 0\)

次に,E-B対応の電磁気学では,巨視的な$\vM$に空間的不均一が現れるとき,そこに巨視的電流密度$\vi_{\rm m}$が現れることを証明する.関係式は

\begin{align} \Rot \vM = \vi_{\rm m} \label{B-RotM} \end{align}

で与えられるが,この定理の一般の場合における証明は難しいため,程度の高い教科書にしか書いていない.


図2: 外部磁場中に置かれた磁性体のふるまいをE-H対応(磁極)モデルで描画する.式(\ref{B-Gauss積分形})参照のこと.点線は分極磁荷が作る磁場で,観測される磁場は,外部磁場と分極磁荷の作る磁場の合成場である.

一方,E-H対応の電磁気学では,磁気分極と巨視的な磁荷密度の間に

\begin{align} \Div \vP_{\rm m} = -\rho_{\rm m} \label{B-div_rhom} \end{align}

の関係があることが直ちに証明される.

ここで注意するべきは,「正負の磁荷は決して分離できない」という条件がありながら,磁性体中に巨視的な(正味の)磁荷密度が現れることが許される,と言うことである.不思議なことであるが,自由電子がなくとも磁荷電流が流れること,個々の原子から電荷は飛び出していないのに巨視的な分極電荷が現れることを認められるなら,この事実も認められるだろう.

つまり,我々が「磁石」と言っている物質は,何らかの方法で動かないように固定された磁気分極を持った物体のことで,その物体は両端に正,負の磁荷を持っていると考えて良い,ということである.

ついでながら,この磁石が空間にどのような磁場を作るか,という問題を解くためには個々の磁気双極子モーメントを考える必要はもはや無く,磁荷密度が作るスカラポテンシャル場$\phi_{\rm m}$を以下の式から直接求めるか,


図3: 連続的に分布する磁荷が作る静磁ポテンシャルの計算方法

\begin{align} \phi_{\rm m} ({\rm P}) &= \frac{1}{4\pi\mu_0 }\iiint_V \frac{\rho_{\rm m}(\vr') dv'}{R} \end{align}

あるいはLaplace-Poissonの方程式

\begin{align} \nabla^2 \phi_{\rm m} = -\frac{\rho_{\rm m}}{\mu_0} \end{align}

を解いて$\phi_{\rm m}$を計算,その勾配を取ればよい.このようにE-H対応の電磁気学では磁石が作る磁場の解析がE-B対応に比べて極めて容易になるので,磁石を扱う分野では好んで使われるわけである.

  

4. 物質の透磁率,$\vH$,$\vB$

次に,$\vH$と$\vB$の関係,物質の透磁率について考えよう.今度はまずわかりやすいE-H対応から考える.E-H対応では,原子の磁気双極子モーメント$\vp_{\rm m}$は磁場が弱い範囲では磁場$\vH$に比例する,と考える.つまり比例定数を$\alpha$として,

\begin{align} \vp_{\rm m} = \alpha \vH \end{align}

となる.第一次近似としてこのように考えるのは当然で,直感的には強い磁場中にあるほど原子の正磁荷と負磁荷が大きく分離するため,と考えればわかりやすいであろう.実際には原子は微小ループ電流なので,外部磁場に比例して原子が磁場の方向に整列する,と理解するのが正しいが.

すると,巨視的磁気分極$\vP_{\rm m}$と磁場$\vH$の間に比例定数を$\chi_{\rm m}$として

\begin{align} \vP_{\rm m} = \chi_{\rm m} \vH \end{align}

の関係が成り立つ.この$\chi_{\rm m}$なる物理量は物質の「磁化率」と呼ばれている.電場との対称性が良い「磁気感受率」と呼ばれることもあるが,この呼び方は残念ながら一般的ではない.

物質の磁気感受率を使い,巨視的磁荷が顕わに出ないように式(\ref{B-Gauss微分形})を書き換えることができる.

\begin{align} \mu_0 \Div \vH &= \rho_{\rm m}\nonumber \\ &= -\Div \vP_{\rm m} \nonumber \\ &= -\Div (\chi_{\rm m} \vH)\nonumber \\ \therefore (\mu_0 + \chi_{\rm m})\Div \vH &= 0 \end{align}

すなわち,$\mu_0 + \chi_{\rm m}$を「物質の透磁率」$\mu$と定義すれば,$\mu$が一定の領域で常に

\begin{align} \label{B-静磁場Gauss} \Div (\mu \vH) = 0 \end{align}

が成り立つ.そこで,$\mu\vH$なる物理量を「磁束密度」$\vB$と名付けよう,とするのがE-H対応の電磁気学における磁束密度$\vB$の定義と意味である.

E-H対応における磁性体の透磁率
     \begin{align}\mu = \mu_0+\chi_{\rm m}\end{align}

すなわち,$\vB$なる物理量は,E-H対応の電磁気学では,磁性体の存在する系において静磁場のGaussの法則を分極磁荷を考えずに実行するため便宜的に導入される物理量,と考える.真の磁荷は存在しないので,任意の点において式(\ref{B-静磁場Gauss})の右辺は0である.

静磁場における一般化されたGaussの法則
     積分形:\begin{align}\label{B-Gauss積分形2}\oint_S \vB\cdot \rd \vS=0\end{align}
     微分形:\begin{align}\label{B-Gauss微分形2}{\rm div}\vB=0\end{align}

一方のE-B対応では,$\vH$と$\vB$の関係,物質の透磁率の導出は複雑である.E-B対応でも,原子の磁気モーメント$\vm$は磁場が弱い範囲では磁場$\vH$に比例する,と考える.ここで,なぜ$\vB$でなく$\vH$ に比例するとしたのだろうか.E-B対応においては電流は$\vB$から力を受けるのだから,電場と磁場の対称性を考えれば当然$\vm$は$\vB$に比例するべきである.実はこれは実用的観点から選ばれたもので,磁性体に磁場を掛けるとき,コントロールしやすい物理量は$\vB$より$\vH$で,磁場中の物質の物性を考えるときは比例定数が入力量である$\vH$に直接比例した方が考えやすい.


図4: 棒状の磁性体に外部から均一な磁場$\vH$を加える.このとき$\vH$は 電流$I$に比例する.

このとき比例定数を$\alpha$として,

\begin{align} \vm = \alpha \vH \end{align}

であるから,巨視的磁化$\vM$と磁場$\vH$の間に比例定数を$\chi_{\rm m}$として

\begin{align} \label{B-ChiM} \vM = \chi_{\rm m} \vH \end{align}

の関係が成り立つ.ここで$\chi_{\rm m}$なる物理量は,E-B対応でも「磁化率」と呼ばれる.困ったことに,E-B対応の磁化率と,E-H対応の磁化率は大きさが$\mu_0$倍違うにもかかわらず同じ名前で呼ばれている.E-H対応における「磁化率」は$\mu_0$と同じ次元を持つ物理量であるが,E-B対応における「磁化率」は,$\vM$と$\vH$の次元が同じであることから,無次元量である.

  E-B対応 E-H対応
磁性体の物理量 磁化率 磁化率
(まれに磁気感受率)
一般的表記 \(\chi_{\rm m}\) \(\chi_{\rm m}\)
MKSA単位 [-] [H/m]
E-B基準の換算係数 \(\times 1\) \(\times \mu 0\)

物質の磁化率を使い,磁性体を含んだ系でAmpereの周回積分を実行しよう.積分路には真の電流と磁化電流が含まれる.磁場の基本法則であるAmpereの法則は,電流が自由な電流であろうと,磁性体内部の磁化電流であろうと平等に成立する.従って,図5において,


図5: 磁性体と自由な電流が存在するときのAmpereの法則

\begin{align} \label{B-積分ampereBase} \iint_S \left[\mu_0\vi_{\rm free}+\mu_0\vi_{\rm m}\right]\cdot \rd \vS=\oint_s\vB\cdot \rd\vs \end{align}

が成立する.これは,静電場の問題においてGaussの法則を適用するとき,$Q_{\rm free}$と$Q_{\rm pol}$の両方を考慮しなければならないことに似ている.ところが,磁化電流密度$\vi_{\rm m}$は,自由な電流$\vi_{\rm free}$に誘導されて出来たものだから,その大きさは$\vi_{\rm free}$の大きさ,位置次第で予測困難である.これは,大きさが保存される自由な電流に比べて扱いにくい.そこで,これをAmpereの法則の中に取り込むことを考えよう.

式(\ref{B-積分ampereBase})を微分形で書き直し,式(\ref{B-RotM})を代入する.

\begin{align} \mu_0\vi_{\rm free}+\mu_0\vi_{\rm m}=\Rot\vB\nonumber \\ \mu_0\vi_{\rm free}+\mu_0\Rot\vM=\Rot\vB\nonumber \\ \label{B-微分ampere} \vi_{\rm free}= \Rot\left(\frac{\vB}{\mu_0}-\vM\right) \end{align}

ここで,右辺の$\displaystyle \left(\frac{\vB}{\mu_0}-\vM\right)$を,「磁場$\vH$」と定義する.E-B対応の電磁気学では,ここに来てはじめて$\vH$ベクトルに物理的意味が与えられる.

すると,Ampereの法則は,磁性体があってもなくても

\begin{align} \label{B-微分AmpereH} \Rot \vH = \vi \nonumber\end{align}

と書き表せることがわかる.もはや,我々はAmpereの法則を適用するときに磁化電流を考える必要はないので,$\vi$は導線を流れる自由な電流のみを表す.このようにして,E-B対応の電磁気学では,$\vH$なる物理量を定義して磁化電流を考えずにAmpereの法則を適用することができる.

磁場$\vH$で表したAmpereの法則(微分形)
\begin{align}\Rot \vH = \vi\end{align}
磁場$\vH$で表したAmpereの法則(積分形)
\begin{align}\iint_S \vi\cdot \rd\vS= \oint_s\vH\cdot \rd\vs\end{align}

今度は,磁場$\vH$なる量は物理的実態でなく,電流素片が力を受けるのはあくまで磁束密度$\vB$からであるということに注意しなければならない.従って常に$\vH$と$\vB$の相互変換に気を配る必要がある.

ここで,先程述べたように式(\ref{B-ChiM})の関係を利用して磁性体内部の$\vH$と$\vB$の関係を示そう.

\begin{align} \vB &= \mu_0 \vH+\mu_0 \vM \nonumber \\ &= (1+\chi_{\rm m})\mu_0 \vH \end{align}

つまり,磁性体で満たされた空間は,磁場$\vH$と磁束密度$\vB$の比例定数が$\mu_0(1+\chi_{\rm m})$になるということである.これを,真空の透磁率が$\mu_0$なのだから,$\mu_0(1+\chi_{\rm m})$を$\mu$として,「磁性体の透磁率」と名づけてもよかろう.まとめると,

E-B対応における磁性体の透磁率
\begin{align}\mu = \mu_0(1+\chi_{\rm m})\end{align}

となる.

以上のように,E-B対応,E-H対応の電磁気学で,$\vH$と$\vB$がどのように定義されるか,磁性体の存在する場において物質と磁場を関係づける法則ががどのように記述されるかを両者を比較する形で紹介した.本稿が, E-B対応とE-H対応の狭間で惑う電磁気学の「迷える子羊」たちを救う一助になれば幸いである.