電磁場(SP)
2012年 | 2013年 | 2014年 |
レポート課題1 出題 05/09 〆切 05/16
全空間の電位Φが以下の関数で与えられている.ここでk,aは正の定数である.以下の問に答えなさい.
Q1: r<a,r>aにおける電場の向きと大きさをそれぞれ計算せよ.
Q2: r<a,r>aにおける電荷密度をそれぞれ計算せよ.
Q3: Q1,Q2の解から,r=aの球殻に面電荷が存在していることが指摘できる.その理由を答え,面電荷密度を計算せよ.
Q4: 系に存在する全電荷を計算せよ.
ポイントは,ただ最終的な解が正しいことでなく,そこに至る筋道が明解で,かつ必然的であること.当然,解に至る筋道は文章で説明すること.したがって,解が正しくても大きく減点される場合がある.
解答及び解説:
- 正答率は低かった.全問正解は5人ほど.特に,Q3は一般的な教科書には載っていない,オリジナルな問題なので自分で考えるしかない.物理学は暗記科目ではないので,調べれば答が見つかるわけでは無いことを強調しておこう.全問正解をA,Q3のみ不正解をA-,2問正解をBとして,部分点を加味して評価した.
- Q1:系は球対称なので極座標を採用する.電場と電位の関係はで,極座標で書き下せばはである.系の対称性から r 成分以外は消滅し,を解けばよい.
r < aでは
r > aでは で,極座標の定義と,k,a がいずれも正の定数であることから向きはいずれも中心から放射方向(方向)とわかる.
- 電場がわかっていれば,その場の電荷密度は微分形のガウスの法則を適用すれば求められる.同じく極座標で書き下せばで,系の対称性から r 成分以外は消滅し,を得る.Q1の解を使い,
r < aでは
r > aでは となる.ここでタネを明かせば,問のポテンシャルは教科書にある「一様な密度ρに帯電した半径 a の球の電位」を,球の内側だけ2倍にし,定数をρから k に変えたものであった.
- Q1,Q2の解からどのようにして球殻表面に面電荷があることを示せばよいか.方法はいくつかある.なかでも一番エレガントなのが,半径 a のすぐ内側とすぐ外側で電場が不連続であることを指摘し,電気力線が切れていることからここに面電荷が存在するべきである,と指摘する方法である.この事実に気づいたのが冒頭の全問正解者5名.
下図は,球表面近傍の電気力線を図示したものである.電気力線が不連続な理由は, r =a の面に電荷があり,それが球の中から発せられる電気力線を終端しているからと考えられる.したがって面電荷密度は負であることがわかる.
電荷密度を求めるために,面上の薄いコインの様な領域でガウスの法則を適用する.コインの面積をΔS とすれば,
となり,面電荷密度σについて解き,
を得る.レポートなのに,図を描いた解答が一つもなかったのは残念.
別解として,Q4を先にやってしまい, 1) r =a のすぐ内側で電荷密度を体積積分して球内部の電荷を求め 2) r = a の外側でガウスの法則を適用して系の全電荷を求め, 3) それらの差と, r > a には電荷が存在しないという事実から, r = a の無限に薄い領域に電荷が存在する という論法もありだ.いずれの論法も,本講義の内容を理解していなければ思いつかないものだろう.
- r > a に電荷が無いことに気づけば簡単.r > a の任意の球面でガウスの法則を適用し,
が系に存在する全電荷量.
例えば,これを,Q2とQ3の答を使って求めた電荷量と比較して,一致していることを指摘するのが良いレポート.今回は該当者なし.
レポート課題2 出題 07/04 〆切 07/11
Q1: 電流Iが流れる無限に長い導線がある.この導線の,図1に示す長さLの区間が図に示された点Pに作る磁場Bの大きさ計算せよ.
Q2: Q1の結果を使い,図2に示される様な1辺2aの正方形の導線に電流Iが流れているとき,中央の磁場Bの大きさを計算せよ.
Q3: 図3の様に,中央と辺までの距離がaの正N角形の導線に電流Iが流れているとき,中央の磁場Bの大きさを計算せよ.
Q4: Nを無限に大きくしていった極限における,中央の磁場Bの大きさを計算せよ.
図1 | 図2 | 図3 |
Q5: 図4の様に,半径aの円形導線に電流Iが流れているとき,導線中央を通る線上,距離zの位置における磁場Bの大きさを計算せよ.
Q6: 図5の様に,巻き線密度n,半径aの無限長円形ソレノイドがある.ソレノイド軸線上の磁場Bの大きさを,Q5の解の重ね合わせで計算せよ.
ヒント:図の様に座標系を取り,長さdzの部分の電流が原点につくる磁場をQ4の解で表してそれを-∞から+∞まで積分する.
図4 | 図5 |
今回の課題は,解が自明な問題が多くあるので,解に至る過程を採点対象とする.したがって,途中式が無い解,途中と結果が矛盾するレポートは不正解.
解答及び解説:
- 今回は,正解がわかっている問題が多いので易しいかと思ったがそうでもなかった.パズルのように考えを進めて行き,ある問題の特殊解が一つ前の問題の解であることに気づけば間違いは防げたのだが.全問正解は6人.前回とほぼ同じ人数だが,これは偶然ではあるまい.2回とも満点の人は良いセンスをしている.
- 同じ間違いを犯している解答が多数.特に,Q3で r と a を取り違えているのは全員が「うっかり」間違えたとは考えられない.はなはだ不愉快である.全問正解をA,1問不正解をA-,2問不正解をBとして,部分点を加味して評価した.
- Q1:問題は教科書p162で無限長直線電流の磁場を求めた物と全く同じ.積分範囲を-L/2からL/2に限定しているだけである.p162によれば,磁場は以下の積分で求められる.
(1)
教科書で定義されたcosθ1,cosθ2,はそれぞれだから,解はただちに.解に r を使ったものは不正解.図1を良く見よう. - Q2:Q1が解ければ計算するまでも無く解ける,パズルのような問題である.Q1でL = 2a のケースを計算して4倍すればよい.答:
- Q3:Q2の考え方を一般化する.多角形の辺の数がNのとき,,を得る.式(1)に代入すれば,で,正N角形の中心はこれがN倍するから,.
- Q4:Nを無限に大きくした極限を考える.θ→0のときだから,答は.これは,良く知られた「円形電流ループ中央の磁場」の問題の解である.教科書ではp158で取り上げられた.
※Q3が不正解のレポートは,たとえ結果が正しくてもQ4を不正解としている.
- Q5:一転して,円形電流が中央を通る軸上に作る磁場の問題.これは教科書に全く同じ問題(p176問5.4)があるので解法は省略.答は.ここで,a = 0 のときに解がQ4と一致することを確認しているのが良いレポート.
- Q6:たぶん,ノーヒントでは難しい問題と思い,図5を用意した.位置zにある長さdzの電流が原点に作る磁場は,Q5の解を利用すればで,これを z = - ∞から z = ∞ まで積分する.このままだと(できなくは無いが)積分は困難なので,教科書p162と同じ方法で積分変数をθに変換する.
解は,良く知られたソレノイド内部の磁場に一致した.ここで,磁場を求めるためにソレノイド内外の磁場分布に一切の仮定をしなかった点に注意せよ.教科書p169でソレノイドの磁場を求めた際,「ソレノイド外部には磁場は無い」と仮定したが,その仮定が部分的ではあるが正当であることが示された.
- 今回の提出者中唯一の完璧なレポートがこちら.論理が正しく簡潔,かつ必要充分であることはことはもちろんだが,字が綺麗で,1問1枚ちょうどに納めた構成力も秀逸である.出題者の私にすら,このレポートが書ける自信が無い.この10年間のベスト1を争うかもしれない.