可変型アクシコン光共振器による光渦ビーム生成
2005/09/10
背景
最近,ドーナツ型のレーザー光を生成,利用する研究が盛んになってきた.その応用範囲は幅広い.ざっと挙げてみよう.
- 光ピンセット,光スパナ
- 荷電粒子の加速
- 量子情報処理
- 光ディスクの高密度化
- 冷却原子の捕獲,輸送など
ドーナツ状ビームを生成する幾つかの方法が提案されている.例えば,
- 中実のビームの中央部分だけを干渉で打ち消し,ドーナツ状にする
- シリンドリカルレンズを用い,エルミート=ガウシアンモードをラゲール=ガウシアンモードに変換
- ホログラフィック素子を用い,TEM00を直接円筒ビームに変換
- 細いビームを回転させ,擬似的にドーナツ状の光場を生成
など.ところが,従来提案されてきた方法は,それぞれに短所がある.例えば,
- 大パワーに対応できない
- ドーナツ状の形を容易に制御出来ない(パラメータが固定されている)
- 偏光制御ができない
など.これらの欠点を克服した,従来にないドーナツ状ビーム生成方法が,「可変中心コーンを持つw-axicon共振器」だ.概念図を下に示す.
この共振器,中実の内側共振器とリング状の外側共振器がw-axiconで結ばれた構造を持っている.ポイントは,w-axiconの中央のコーンが前後にスライドすることだ.これにより,内側共振器のモードが任意のLaguerre-Gaussianに制御でき,自在にリングの中央空隙の大きさを制御することが出来る.コンピューターシミュレーションによって計算された発振モードを下の図に示す.
発振したビームを長焦点のレンズで集光すると,長い「光のトンネル」ができる.冷却原子を輸送する目的にはうってつけだ.
この共振器が成立可能であることを証明するため,シミュレーション計算をもとにして共振器を作成,レーザー発振実験を行った.実験装置の概念図,実験装置の写真を下に示す.
共振器は銅を素材にDiamond turningで作成し,上から金をコーティングした.表面粗さは5nm,形状の忠実度は91nm(RMS)である.レーザー媒質は何でも良いのだが,今回は利得が大きく発振が容易であること,入手が容易であることを理由に色素を選択した.色素はSulforhodamine 101を140ml/gの濃度でエタノールに溶解し,厚さ2mmの石英セルに封入.これを,Nd: YAGの第二次高調波で叩く.レーザーはパルス幅10ns,エネルギーは5mJほど.セル正面から励起し,セル上でのスポットサイズは5~10mmになるようにした.レーザー発振の横モードはCCDカメラで撮影.
上の図はレーザーのNear field patternとfar field patternを示したものである.理論計算通り,ドーナツ状の発振が得られた.さて,ここまでは実験的に実証されたわけだが,このビームの偏光を制御するにはどうしたらよいのだろうか.実は方法は簡単で,共振器のaxicon elementのうち一つを,偏光依存反射率を持つ反射面に置き換えてやればよい.
いま,外側共振器のフィードバックをtoric mirrorからaxicon mirrorに変えることを考える.ここに特殊なコーティングを施し,s偏光,あるいはp偏光のみ反射が抑制されるようにすることは容易である(金はかかるが).すると,何が起こるか.
偏光を制御していないときの発振.左が外側共振器の電場ベクトル,右が出力ビームのfar fieldにおける電場分布だ.何とも言えない複雑な電場分布をしている.中央の数字は,コーンの突きだし量を表す.今のところは意味はない.
さて,ではs偏光の反射率を抑制してみよう.すると,電場ベクトルは共振器中央から放射状に伸びる向きのみに強制され,radial polarization beamが生成される.
中央コーンの突きだし量に注目.実は偏光の様子はこの値に非常に敏感に反応する.0.58mmを0.49mmとしてみると,発振モードは以下のように劇的に変わる.
それでも,発振モードはp偏光を保っていることに注意されたい.実は上の発振モードは「in-phase」,下の発振は「out-of-phase」と呼ばれるものだ.
続いて,p偏光反射を抑制し,azimuthal polarization beamを生成してみよう.
「out-of-phase」発振モードの特徴は,光ビームが軌道角運動量を持つ,ということだ.これも今,情報処理や量子光学,天文学の分野で注目を集めている研究分野である.
このようにして,中央コーン可変のw-axicon光共振器から,自由な形状,自由な偏光分布のドーナツ状ビームが生成できることを示した.