電磁気学特論(SPM)

2006年 2007年 2008年

レポート課題1 出題 04/19 〆切 04/26

図のように,充電された円形の平行平板コンデンサーに対して,一様な磁束密度${\mbox{\boldmath$B$}}$が水平に貫い ている.コンデンサーの中央,磁場に垂直な面で切ったときの面上のPoyntingベクトルについて考える.

1. コンデンサーの端の効果を無視したとき,コンデンサー内部のPoyntingベク トルを求めなさい.

2. 教科書では「系に損失がないときPoyntingベクトルはループになる」とあるので,問1の答えは明らかにおかしい.これはコンデンサーの端の効果を無視したからである.では,端の効果まできちんと考えるとPoyntingベクトルはどうなるか.

3. いま,コンデンサーに挟まれている誘電体に導電率があり,一様な電流が流れているとする.このときのPoyntingベクトルはどうなるか.コンデンサー内部のみ考え,図で示しなさい.この問については,図のみでなく解答の根拠を文書で説明すること.

講評:正解の発表が遅れて申し訳ない.ゴールデンウィークなので勘弁してね.

  • 実は,今回の問題はわざと出題文を不親切にして,みんながどういう解答をするのかを見たかった.例年ならPoynting vectorを描く専用の解答用紙を用意したのだが.多くの人が出題者の意図を的確に把握してくれたので満足.でも,やはり勘違いした人もいて,日本語の読解力は理学部においても重要,と言う事実を再認識した.
  • 問1は,「求めなさい」という表現は不適切だったかな.反省してます.ただ断面の絵を描いてくれれば良かったのだが,Sの方向を計算しただけの解答があった.断面内のPoyntingベクトルの方向を示すことが分かる解答は正解としたが,ただS=E×Hとしたものは不正解.
  • 問2は,定性的には合っている解答が多かったのだが,じつはこの場合Poyntingベクトルは「端の効果を考えたコンデンサーの等電位面」に一致する,という事実に気づいた人はほとんどいなかった.従って定量的には絵も不正確だ.数学的に正しい正解はこちらである.
  • 問1,問2の正解の中から,優れたものをこちらに示す
  • 問3は,図の「面」のコンデンサー内部のみを考えれば良いのだが,上から見た図を考えて混乱してしまった人が何人かいた.まずは横から見たPoynting vectorの正解をこちらに示す.しかし,この答は定量的には正しくない.電流の作る磁場は半径の関数で直線的に増加する.この点に気づいた正解がこちら.絵があれば完璧だったのにねえ.
  • 上から見たPoynting vectorを正しく見抜いた正解はこちら.上から見て,コンデンサーの中央で切った断面におけるPoynting vectorを考えよう.外部磁場が電流の作る磁場より弱いとき,磁場はある1点のみでゼロ(|B|=0の点が必ず1カ所ある)で,Poynting vectorはその点に向かって流れ込むように分布する.外部磁場の方が強いときは,外側の「仮想の中心」へ向かうベクトルになるはずだ.
  • 外部磁場が無いとき,Poynting vectorはコンデンサー中央に向かって放射状に流れ込む.そのことを指摘した解答がいくつかあったがそれは今回の問題で問われている事ではないので不正解.

レポート課題2 出題 05/17 〆切 05/24

Q1:直感的に考えた,原点にある振動電流が作るベクトルポテンシャルは

\begin{displaymath}
A_z (r, t) = \frac{\mu }{4\pi r}i\omega P_z e^{i\omega t} \eqno{(1.87)}
\end{displaymath}

と書けるが,これはMaxwell方程式(1.74)の解になっていないことを証明しなさい.ここで,Maxwell方程式 の右辺は,原点以外では電流が存在しないためゼロで,任意の点におけるベクトルポ テンシャルが$z$方向を向いているのは自明なため ${\mbox{\boldmath$A$}}$をスカラと考えて良い.従って証明 するべきは以下の式(易).

\begin{displaymath}
\left( {\nabla ^2 - \epsilon \mu \frac{\partial ^2}{\partial t^2}}
\right)A_z = 0
\end{displaymath}

Q2:電磁波が伝搬するとき,電場と磁場の大きさの比率は特性インピーダンス $\eta$に決まっている.この事実から,任意の系において 「電磁波により電場が運ぶエネルギー と磁場が運ぶエネルギーは常に等しい」という事実を証明しなさい(中).

※難しい体積積分なんかしないで,簡単に考えてね.

Q3:原点に置かれた,$z$方向を向き振動する電気双極子が張るポテンシャルの推定式

\begin{displaymath}
\phi(r, \theta, t) = \frac{P_z e^{i\left( {\omega t - kr} \r...
...frac{ik}{r} + \frac{1}{r^2}} \right)\cos \theta \eqno{(1.102)}
\end{displaymath}

が,確かにMaxwell方程式(1.75)の解になっていることを証明しなさ い(難).

講評:

  • 今回の問題はみなさん無難に解答してくれました.Q3をはじめから諦めた人,それで構いません.ホームランより確実なヒットを狙うこと.やってみた人は,思いの外面倒な計算にびっくりしたかも知れません.
  • Q1の∇^2は,「rのみを独立変数とするスカラ関数」なので,当然極座標形式で行うのが正道.こいつをわざわざデカルト座標や円筒座標で計算した人がたくさんいたが,問題を不必要に難しくしているだけだね.教科書p13を読み直すこと.
  • 問2については正解者多数.でも,証明せよ,という問題に対して解答が「証明」の体をなしていない人がいた.これらの解答については添削がしてある.証明するとはどういう事か,復習して欲しい.最も簡潔な証明の例を以下に示す.

    電磁波の存在する空間において,電場と磁場の強度比は常に \begin{displaymath}
\frac{E}{H}=\eta=\sqrt{\frac{\mu}{\varepsilon}}
\end{displaymath}  (1)

    一方,単位体積当たりの電場エネルギーと磁場エ ネルギーの比率は  \begin{displaymath}
\frac{w_e}{w_m}=\frac{\varepsilon E^2}{\mu H^2 }
\end{displaymath} (2)

    であるから,(2)に(1)を代入して  \begin{displaymath}
\frac{w_e}{w_m}=1
\end{displaymath} (3)

    を得る.よって電磁波の運ぶ電場エネルギーと磁場エネルギーは等しい

  • 問3の解答で,φの時間,空間微分がそれぞれ\begin{displaymath}
\frac{\partial ^2}{\partial t^2}\phi = -\omega^2 \phi
\end{displaymath}\begin{displaymath}
\nabla ^2 \phi = -k^2 \phi
\end{displaymath}になることに気づいた人が何人かいた.良いセンスをしている.これはなかなか興味深いことだと思わないか?この物理的背景について考えてみよう.
  • 全問正解者から,特に優秀なものを二つ紹介し,模範解答としたい.  模範解答1 模範解答2

レポート課題3 出題 06/12 〆切 06/21

今回は,図らずも難問になってしまいました.どうしても分からない人はQ2(1)だけでも解いて提出しよう.それでも,教科書に書いてないことは何一つない.実力があれば全問正解は可能.

Q1: 水の周波数2.45GHzにおける誘電率は,$\varepsilon '=76.7$$\varepsilon ''=12.2$ である.このデータを利用して,水の表面に2.45GHzのマイクロ波が垂直に入射したと きの強度反射率を求めなさい.なお,水は,マイクロ波周波数においても$\mu =
\mu_0$が成立する.

Q2: ある誘電体の誘電スペクトルをモデル化したところ以下の式に良く合うこと が分かった.

\begin{displaymath}
\varepsilon '-i \varepsilon '' = \varepsilon _U+\frac{\varepsilon _R-\varepsilon _U}{1+i
\omega \tau}
\end{displaymath}

ここで$\varepsilon _U = 2.0$$\varepsilon _R = 12.0$で,$\omega$は角周波数, $\tau$は誘電体の緩和時間である.

(1) この誘電体のCole-Cole plotを描きなさい.

(2)$\varepsilon ''$が最大になる周波数を計測したところ,$\omega=1.5$GHzとなっ た.このときの誘電体の$\tan\delta$と,誘電体の緩和時間$\tau$を求めなさい.

講評:

  • はい,皆さんお疲れ様でした.全問正解者多数.しかし,「難問」という言葉に騙されたのか,皆さん不必要に問題を複雑にしています.週末を一日ツブしてしまったかな?
  • まず,問1だが,これは教科書p39の公式
    \begin{displaymath}
R = \left\vert {\frac{1-\hat {n}}{1+\hat {n} }} \right\vert^...
...\right) + 1 - 2n}{n^2\left( {1 + \kappa ^2} \right) + 1 +
2n}
\end{displaymath}
    を使うのが正道.この場合$\displaystyle \hat {n}$$\textstyle =$$\displaystyle \sqrt {\hat {\varepsilon } /{\varepsilon _0}}$を求める必要があるのだが,複素数の計算ができる関数電卓があれば一発で$\displaystyle \hat {n}$$\textstyle =$$\displaystyle 8.7853(1-i 0.0790)$と答が出る.あとはこれを上式に代入すればよい.
  • しかし,多くの人が,何か他の教科書を参考にしたのか,このような解き方をしてきた.これだけの計算を間違えなかったのは見事と言うしかない.
  • 「教科書に書いていないことは何一つ無い」と言ったので,今回は問題をスマートに解いた解を高く評価したい.特に,今回は私の予想を上回る手練れがいた. 複素誘電率を $\varepsilon ' >> \varepsilon ''$とみて, $\sqrt {\hat {\varepsilon } /{\varepsilon _0}}\sim\sqrt{\varepsilon '}
\left(1-i \frac{1}{2}\frac{\varepsilon ''}{\varepsilon '}\right)
$を使い電卓で$\hat n$を計算してしまった.誤差は微小.これが今回Q1の解答 の中で唯一,かつ最も優れた解答である.ただし,非常に惜しいことに$\kappa$の計算で痛恨の計算ミス!!画竜点睛を欠くがここに表彰
  • Q2(1)も同様に,非常に難しい計算をしてこれが半円であることを証明してくれた 解答がいくつかあったが,これが教科書p44の式(3.45)と全く同じ形であること に気がつけば,グラフが半円になることは計算せずともわかる. あとは円の始点,終点の座標を計算するだけだ.正解はこちら
  • Q2(2)は,グラフが描ければ簡単.まず,$\varepsilon ''$が最大のとき,$\varepsilon '= 7$$\varepsilon ''= 5$であることは直ちに分かるので$\tan
\delta=5/7=0.71$となる.
  • $\varepsilon ''$が最大のとき$\omega \tau=1$という性質を証明もなく使った解があったがこれは本来なら不正解.きちんと証明する必要があるだろう.証明は, たとえば問の複素誘電率の式を実部,虚部に分け表し,虚部の最大(微分がゼロ) を得る条件で$\omega \tau=1$を証明すればよい.実際に行った解答例はこちら.あるいは,問の複素誘電率の式を実部,虚部に分け表し,$\varepsilon '= 7$を代入すれば$\omega^2 \tau^2=1$が 直接得られる.従って答は0.67ns.

レポート課題4 出題 07/03 〆切 07/12

最近1年の科学雑誌,学会発表,論文,新聞,インターネット上のニュースなどから「電磁気学II」で習った事柄と関連ある記事を引用し,ニュース形式でまとめなさい.以下の条件を守ること.

  • 出典を明記すること.
  • A4版1枚にまとめること.
  • 図,写真などを必ず1枚は添付すること.
  • 手書き or ワープロは問わない.
  • すでに授業で話した話題はNG.

解答例をこちらに示す.これは,授業で話したね.

※今回の採点基準は,電磁気学IIと関係あること,読んで面白い話題であることに加え,「他の人と異なる記事である」ことを重要視する.従って,皆が気がつかないような話題を探してくることが高得点のポイント.

講評:

  • 今年も昨年同様楽しませてもらいました.「電磁気学II」も今年で最後.良い想い出ができました.
  • 驚いたことに,重複した記事が全くなかった.昨年,同じ記事が最大で9人もいたことを思えばこれは奇跡的.相談したの?
  • 内容も興味深く,私が知らなかったものがたくさんあった.
  • 採点基準について一言.
    • 採点で最も重視したのが,「記事を理解するのに『電磁気学II』で得た知識が役に立ったか」と言う点.これをを基準にして基本点をAかBのいずれかとした.
    • 面白い話題であるか,時事の話題であるか,と言う点については全員が合格点.従ってB未満の解答はなし.
    • 「フォトニクス結晶構造」を調べてきた人は結構いたが,「電磁気学II」の内容との関連,という観点からは最適なテーマとは言えないだろう.合格点だが,優秀レポートとは言い難い.上で述べたように,従来技術である「反射防止膜」と対比すればその限りにあらず.
    • 「レーザー」も,授業で話したのはあくまで共振器としてのopen resonatorのアイデアだけなので,共振器の工夫がないものは授業とは無関係.
  • 番外:「実験III」のネタなのでルール違反だが非常に興味深いのでA+. 優秀レポート4